2023年から長らくホームグラウンドだった札幌ドームからエスコンフィールド北海道へ移転します。
北海道日本ハムファイターズが新球場を作り、移転する理由について今一度確認してみたいと思います。
札幌ドーム移転の一般的な理由
最初に一般的に札幌ドームから移転する理由として言われていることを列挙していきましょう。

球場使用料が高すぎる・・・。

グッズを売ってもほとんど球団の利益にならない・・

人工芝に問題があるからでは無いの・・。
一般的に言われているのはこんなところかと思われます。
まとめると、札幌ドームの使用料が高く、球団の経営を圧迫しており、球場内のビジネスも球団の利益にならない、さらに球場の敷地内に新たに施設を作成することもできないため、球団側が思うようにビジネスを行うことができず、ファイターズがドームから搾取され続けているから、札幌ドームから出て行くのでは無いか・・・。そんな意見が一般的だと思います。
でも、札幌ドーム側の条件だけが問題で、それだけ新球場を建設する必要があるのか?
僕自身、この世間での定説には違和感を強く感じていまして、いくら札幌ドーム側の使用条件がファイターズに厳しいからと言って、それが新球場建設につながるのは、あまりにも発想が飛躍しすぎているのではないか?そう感じていました。
個人的には使用条件が大きな問題なら札幌ドームを離れなくても解決する方法はいくらでもあるのではないか?
最初にその理由を書いていきたいと思います。
なお、今回の記事は以下の書籍を参考にして書いています。
稼ぐ!プロ野球 新時代のファンビジネス (PHPビジネス新書)喜瀬 雅則 (著)
札幌ドームから離れなくても運営できる方法は?
まず、NPB12球団とホームグラウンドの関係をまとめていきます(2022年シーズン現在)
- 自前の球場もしくはグループ企業が保有→福岡ソフトバンク、埼玉西武、オリックス、阪神、DeNA
- 指定管理者制度→東北楽天、千葉ロッテ、広島
- 使用料を支払い、借りる形→巨人、東京ヤクルト、中日、北海道日本ハム
もし、ファイターズが今より制約を少なくして、ファイターズが札幌ドームを使用し続けるという選択をするなら、札幌ドームを買い取りする方法、もしくは北海道日本ハムファイターズが札幌ドームの指定管理者になるという方法があります。
ちなみに指定管理者制度とは、自治体に一定の使用料を払うが、その運営、営業権を得ることができるという制度です。
まず、自前の球団にする方法の一例としてはDeNAがTOB(株式公開買い付け)を実施し、横浜スタジアムの運営会社の筆頭株主になったこと、そしてオリックスは大阪ドームを買い取り、運営会社をグループ会社の子会社とすることで球団と事実上の一体経営を行なっていることなどが挙げられます。
ファイターズが札幌ドームの指定管理者制度を目指した場合、障害になりうるのが、同じ札幌ドームをホームグラウンドとして使用しているJリーグのコンサドーレ札幌です。
しかし、コンサドーレと共同出資して運用会社を作り、その運用会社を指定管理者として認めてもらえれば、少なくとも今よりは、球場の使用制限について軽減はできた可能性があります。
その可能性はあったのにも関わらず、なぜ新球場を作成する動きになったのか?(実際にそのような動きがあったかも知れませんが・・)
ファイターズの構想上、札幌ドームでは実現が難しい、そのことが新球場建設の流れになっていきます。
街づくり実現のため広大な土地が必要だった
では、ファイターズはどのような構想を考えていたのか、見ていきたいと思います。
構想のモデルとなっているのはメジャーリーグの球団の「街づくり」でした。
この「街づくり」ということはどういうことか、日本の球場を見ている私たちにはあまりピンとこないかも知れません。
球場の周りにいろいろな施設を建築し、周辺地域に人を呼び込む。
試合があるときはもちろん、試合がない時も一日、十分楽しめる施設を整える。
アメリカの球団の場合は、元々の球場の周りの用地を買収し、施設を建築していくと手法をとっている球団もありますが、ファイターズの場合は最初から新球場建設→球場を核とした街づくりというコンセプトがあるので、新球場作成する際には広大な用地が必要になってきます。
そのために新球場建設の時に条件として「20ヘクタール以上」という条件を札幌市などに提示していました。
20ヘクタールという数字ですが、球場だけなら3〜5ヘクタールあれば建設することが可能ということです。
それよりも数倍広い敷地を条件として求めていたのは、球場を建設したあと、残った敷地で様々な施設を建設し、球団理想の街づくりを進めていく、というものですが、全て使用用途が決まっているというわけではありません。
街づくりを進めていくうちに、何が必要なのか、何が求められているかを見定めた上で建設を進めていくスタイルをとっていく考えのため、その都度土地を買収するのではなく、事前にまず土地だけでも押さえておきたい、というのが球団側の考えでした。
従来の札幌ドームではファイターズの壮大な計画には対応できず、あと札幌市が提案した複数の候補地も20ヘクタールという条件の土地は提示することができませんでした。
札幌市側がファイターズ側の要望を正確に汲み取ることができなかったようにも感じますし、元々希望した20ヘクタール以上の用地の確保が難しかったのかもしれません。
真っ先に誘致に名乗りをあげた北広島市だけが20ヘクタール以上の条件をクリアしたため、札幌市を離れ、北広島市に新球場を作ることになった、そう考えると札幌ドームの使用料の問題が移転の主な原因とは断定はできないのではと考えます。
野球オンリーでなくなる球団運営の変化
「球場を中心とした街づくり」と聞くと、こう考える方もいるかも知れません。

プロ野球の球団だから、球場だけ持っていればいいのでは?
しかし、今後、プロ野球のファン人口がそのまま安泰かというと決してそんなことはなく、こちらも少子高齢化の波と戦うことになっていくことは容易に想像できます。
もちろん、野球人口の拡大を目指した動きをしていますが、少子高齢化だけはすぐなんとか対応できる問題ではありません。
そうなると別の方法で利益を獲得する方法を見つけないといけません。
ファイターズの構想「F VILLAGE」ですと、構想のスケールが大きすぎて、ピンとこないところもあるので、ここでは福岡ソフトバンクホークスの取り組みを例にして考えていきましょう。
ソフトバンクは本拠地・PayPayドームのすぐ横に「BOSS E・ZO FUKUOKA」を2020年7月に開業します。
この建物は7階建てで各種アミューズメントが一堂に詰め込まれています。
HKT48の専用劇場あり、よしもと福岡の劇場あり、さらに王貞治ベースボールミュージアムもあり、と羅列して書くとなかなかのカオス感を感じてしまいますが、どうしてホークスはドームの近くにこのような施設を開業したのか、そのことを考えるとファイターズの新球場構想の目的が見えやすくなるかと思います。
参考にさせていただいます著書「稼ぐ!プロ野球」から代表取締役専務COO兼事業統括本部長・太田宏昭氏との取材記事から一部抜粋させていただきます。
(前略)「福岡ソフトバンクホークスという、民間の営利を追求する会社として存在しているわけで、球団ありきの会社ではないと思っているんです。」(後略)
稼ぐ!プロ野球 新時代のファンビジネス (PHPビジネス新書)喜瀬 雅則 (著)PHPビジネス新書喜瀬 雅則 著〜第1章 博多から「世界一のおもてなしを」世界的エンタメ企業を目指すソフトバンク より引用
(前略)「いろいろな形で、ドームを使っていただいている。コンサートで、多くの有名なアーティストに来ていただいて、ファンの方がドームで熱狂する。これもエンターテイメントだし、就職のイベントで使っていただくこともあるし、もちろん野球もある。その目線からしたら、福岡のこの地で、人が福岡に来たらPayPayドームのあるところに行ってみようと、そう思ってもらえるようなことになっていくことが、僕らの事業の根幹かなと思うんです。」
稼ぐ!プロ野球 新時代のファンビジネス (PHPビジネス新書)喜瀬 雅則 (著)PHPビジネス新書喜瀬 雅則 著〜第1章 博多から「世界一のおもてなしを」世界的エンタメ企業を目指すソフトバンク より引用
球団=野球として考えるのではなく、コンテンツビジネスの一つとして野球がある。
ファン層の拡大のためにエンタメのビルを建てたのではなく、総合エンタメ企業の一つとして野球があり、エンタメ企業の一つのビジネスとして「BOSS E・ZO FUKUOKA」を開業させたということのようです。
北海道日本ハムファイターズの「F VILLAGE」も考え方の根本は同じところがあり、球場を中心とした街づくりはファン以外の方にも球場ではなく、球場の敷地に来てもらう、というのが球団側の狙いということになります。
いろいろな施設を球場を中心にした用地に建設したのは、プロ野球ファンが球場だけでなく、他の施設を利用していただき、利益を得るということはもちろんですが、プロ野球に興味のない方が球場以外の施設を利用していただき利益を得ること、むしろ、このことの方が今回の計画としてはウェイトを占めているのではないかと思います。
言い換えれば、新規ファン開拓のためにF VILLAGEを建設したということではないということです。
ファイターズのようにここまで大規模ではないのですが、他の球団も既に取り組んでまして、東北楽天イーグルスの球場内に設置されている観覧車を代表とする「スマイルグリコパーク」がわかりやすい例だと思います。
プロ野球チームも野球の興行だけではやっていけない時代になってきており、生き残るために野球だけではない総合エンターテイメント企業への進化を遂げることが必要で、ファイターズは進化の方法として街づくりという方法を選択したということです。
札幌ドームへのネガティブの理由だけではなく、新しい球団経営のスタイルを求めて、新天地を求めたと考えた方が、今回の新球場建設の流れはわかりやすいのかもしれません。
長文になりましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございます。
もし、球団の経営について興味がありましたら今回、参考にさせていただきました「稼ぐ!プロ野球 新時代のファンビジネス 」(PHPビジネス新書)喜瀬 雅則 (著)をご覧になってみてはいかがでしょうか?
この記事ではファイターズ、ホークスの例を参照しましたが、球団経営についていろいろな角度から取材されています。
この著書には埼玉西武ライオンズの元選手である高木大成氏の仕事ぶりも取り上げられていますが、高木氏も自らの仕事についての著書も出版されています。
今回触れた内容に近い、メットライフドーム(出版当時の名称)の改築の狙いなどにも触れている物になりますので、こちらも興味があれば手にとっていただければと思います。
新球場がどのようなイノベーションを起こすのか、非常にワクワクしますね。
というわけで以上、ハムかつサンドでした。
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